興奮するから、「勃起」するのではありません

男性編

知っておきたい「精子」の話、「勃起」のしくみ

●興奮するから、「勃起」するのではありません

さて、妊娠が成立するためには「精子」はもちろんのこと、「セックス」という行為がなくてはなりません。ところが、「男性不妊」の中には、造精機能に問題はなくても、勃起不全(ED)に悩み、赤ちゃんをつくることができずにいるカップルもおり、その数は増加傾向にあります。

勃起不全に関しては、体に疾患が認められる「器質性」と精神的ストレスに起因する「心因性」2つの側面があり、8~9割が「心因性」とも言われています。
「心因性ED」はこれといった原因を特定できず、改善に時間がかかるケースもありますが、治療法がないということはありません。
また、心因性と思っていても、体のほうにも勃起を阻害する要因があるなど、複合的なケースもあります。

これまではあまり意識したことがなかったかもしれませんが、根本となる勃起のメカニズムを知ることで、気づかなかった要因が見えてくることもあります。
まずは、ご自分の体に興味を持つことから始めてみましょう。

陰茎が勃起するケースには、次の2つがあります。


(1)中枢性勃起

心理的な刺激によって起こる勃起。女性の裸体を見たり、エロティックな想像をしたりなど、性的なイメージを抱くと、その情報はまず大脳皮質を経由して、視床下部にある性中枢に伝わります。そこから「勃起せよ」というサインが出され、脊髄にある勃起中枢を刺激すると、海綿体の空洞に血液が一気に流れ込み、その圧力によって陰茎は勃起するという生体反応が起こるのです。


(2)反射性勃起

物理的刺激によって起こる勃起。マスターベーションやペッティングを通じて陰茎や陰嚢を刺激したり、乗り物などで下半身に微妙な振動を受けたりなどしたときに、脊髄の中にある勃起中枢が刺激されることで起こります。海綿体組織が血液で満たされ、その圧力によって陰茎が立つメカニズムは(1)と同じ。


勃起の仕組み
勃起の仕組み

勃起のしくみで注目したいのは、陰茎内にある海綿体の毛細血管に血液が流れ込み、筋肉の力ではなく「血液の圧力」によって充血した陰茎が、硬く大きくなるという点。つまり、勃起とはペニスの充血状態なのです。(一方の射精は、筋肉の収縮によって起こります)

性的興奮などで勃起中枢が刺激されると、ペニスとその周辺の動脈が緩み、血管が拡張したところに血液が流れ込みます。
このとき、血管を拡張させる役割を果たしているのがNO(一酸化窒素)です。
NOは性的な興奮によって神経から分泌され、勃起を促します。さらに、勃起後は血管全体から分泌され、勃起を維持する重要な役割を果たすのです。

ここで、「性的な興奮」という言葉を使いましたが、実は本来、勃起とは自律神経の「副交感神経」が優位な状態、すなわちリラックスしているときに起こります。
「興奮」とリラックスは正反対のように感じるかもしれませんが、要は楽しみや悦び、癒されるといった精神状態のときには、副交感神経が活発化しているのです。
女性の裸を目の前にしたら、確かにこういう気持ちになりませんか?

自律神経にはもう一つ、「交感神経」がありますが、こちらは強い緊張状態やバリバリ働いている戦闘モードの際に活性化します。
残業続きだったり、夜遅くまでパソコンやゲームなど刺激の強い画面を見続けたりする生活をしていると、交感神経が常に働かざるをえない状況となってしまい、副交感神経に切り替わるタイミングを得られず、EDの原因となる危険があるのです。

現代社会は、とかく交感神経が酷使される生活になりがちですが、赤ちゃんを望むなら、ご自分で意識的に副交感神経にスイッチを入れるように工夫されると良いでしょう。
交感神経が働きっぱなしだと、睡眠不足や眠りが浅くなり、そのためにホルモンの分泌低下など、「男性不妊」を加速させることにもなりかねません。

また、交感神経が常に活発で心身にストレスが蓄積されていくと、体内に「活性酸素」が増えることも勃起には悪影響です。
活性酸素は、食べ物から摂取したビタミンCやポリフェノールに代表される抗酸化物質によって分解・除去されますが、体内で必要以上に生産されるとその作用が追いつかなくなります。
そうして、体内の活性酸素が過剰になると、血管や神経の細胞にダメージを与え、それによってNOを十分に分泌することができなくなると、EDのリスクも高まっていくのです。

その他、NOの分泌には、男性ホルモン「テストステロン」も深くかかわっています。ストレスによって自律神経のバランスが崩れれば、テストステロンの分泌も低下し、その結果、NO不足に陥ってしまうということも考えられます。

いずれにせよ、活性酸素を大量発生させないストレスフリーな生活を心がけると同時に、食生活や適度な運動によって活性酸素をこまめに除去するようにし、良好な血管状態を保つことがEDの予防・改善に重要であることがお分かりいただけるでしょう。


先生の豆知識コラム

川上智史

北里大学院医療系研究科医学
専攻博士過程修了医学博士

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